「神の計画と人の思惑」サムエル記下4章
サウル王がギルボアの戦いで戦死した後、イスラエルはサウルの息子イシボセテが後継の王に、ユダではダビデが王になり、事実上二重王国に分裂し、サウル家とダビデ家の両家の主導権を巡る争いが続いていました。ダビデが全イスラエルの王となるまでには7年半の歳月を要しています。3章は、イシボセテを擁立したサウルの従兄弟にあたる将軍のアブネル、ダビデ、さらにダビデの甥であるヨアブの三者三様の思惑が記されています。サウルの家ではアブネルが実権を握っていましたが、ある時イシボセテの口から出た一言がアブネルを怒らせ、これを契機にアブネルはダビデに寝返り、ダビデにイスラエル併合の手助けをすることを提案します。しかし、ダビデはこのアブネルの提案に最初から喜んで飛びついたわけでありません。ダビデがアブネルと共謀し、陰謀によって全イスラエルの支配を獲得したという評価を受けることを怖れたのです。そこでダビデはサウルの娘ミカルを連れて来るように伝えます。サウルはイスラエル全土の民の前でサムエルによって油注がれた王でしたから、その娘婿という立場は後継者としての正当性を持たせるため、イスラエルの民の承認を得るためにも、ミカルとの復縁が必要だったのです。アブネルはさらにイスラエルの長老たちやベニヤミン族との間に根回しをし、ダビデが王位につくことは神の意思であると説得しました。こうした全ての条件を整え、アブネルは20人の部下を連れてヘブロンへ行き、堂々と交渉のテーブルにつきました。ダビデは酒宴を催して歓迎しましたが、全イスラエルの統治がダビデに託されるというこの契約を台無しにするような事件が起こります。その場に居合わせなかったヨアブが、アブネルがダビデの所に来て平和の内に帰ったと告げるものの言葉を聞き、ダビデ王のとった措置に異を唱え、独断でアブネルを呼び戻し、殺してしまいますダビデは一変して危機に直面します。契約のために平和的にやってきたイスラエルの将軍アブネルを暗殺してしまった事実はもとに戻せません。ダビデはこの暴挙がまったく自分の意思によらず、関知していないこと、ヨアブが自分の弟をアブネルに殺された個人的復讐心から行ったことを明らかにし、アブネルの死をいかに残念で悔やんでいるかを内外に明らかにしました。こうしてアブネルの殺害は王の意図によるものではないと周知されましたが、勝手な行動をしたヨアブを処罰せず、その悪は主が報いられるよう委ねています。ダビデといえども家臣の悪に悩まされ、決して何事も自由にできる英雄ではなかったのです。しかしアブネルもイスラエルの将来を自分が左右できると自負して行動していましたが野望は阻まれ、ただ主の計画だけが堅く立ち、成就して行く様を、この物語から読み取ることができます。神はこのように歴史を支配し、背後で生きて働いておられます。