「公義と公正」サムエル記下4章~5章5節
アブネルはダビデと王国統合の交渉に出向いた先で暗殺されましたが、サウルの息子イシボセテはそれを聞いて完全に気落ちしてしまいます。サウル軍の司令官であったアブネルが実権を握り、さらにダビデ側に鞍替えするのを快く思わなくても、アブネルの力を頼りとしていたからです。アブネルの死後、バアナとレカブという兄弟がイシボセテを暗殺しようとします。彼らは身分が低くても王宮の近くにいることができる下僕として働いていたのでしょう。ある日、2人は小麦を受け取るふりをして王の寝殿に入ることに成功し、昼寝をしていたイシボセテを刺し殺して、その首を携えて夜通し歩き、ヘブロンにいるダビデに「お命をねらっていた王の敵、サウルの子イシボセテの首です。主は王の為に、サウルとその子孫に報復されました」と言って差し出しました。ならず者2人はダビデから多くの褒賞を得て、新しく誕生するイスラエル王朝でのふさわしい地位と役割が与えられるだろうと、胸を張ってやってきました。しかしダビデの反応は彼らの期待していたものとは全く異なるものでした。かつてギルボアの戦いで自刃したが死にきれず苦しんでいたサウル王に頼まれてとどめを刺したアマレクの兵士が、サウルの身に着けていた王冠や腕輪を携えてダビデの元へ報告に来たら、ダビデは「主が油注がれた方に、恐れもせず手にかけるとは何事か」と彼を打ち殺しました。理由はどうあれ、神が選ばれた王を殺すこと自体が重罪であることを内外に知らしめる出来事でした。ましてやバアナとレカブは無抵抗で寝ている王の所に忍び込んで殺害するという、アマレクの若者の行為よりはるかに悪辣であると断罪されます。ダビデはこの2人を処刑し、イシボセテの首は敬意をこめてアブネルの墓に葬りました。この行為は、のちに続くイスラエル王権交替にしばしば繰り返される「他国のような」非合法的手段による政権奪取の流れに対し、「神に逆らう者」に「主の正義」が執行され、混乱と無秩序に陥ろうとするイスラエルを救おうとする行為でした。やがてダビデは全イスラエルの長老たちに認められ公的に油注ぎを受け、主の御前で正式に王になったことを国内外に明らかにしました。